この映像は、テキサス州オースティンにあるブルースクラブ、アントンズでの様子を記録したドキュメンタリーである。基本的には演奏場面も映ってはいるが、多くのインタビューにより、この21世紀になっても、ブルースの火を絶やさずにいる芯の通ったライブハウスの姿を描いたものだ。
だからと言って、詰まらないというものではない。ディヴィッド・ボウイの「レッツダンス」でアルバート・キングと見紛うばかりのギターを弾いていたスティーヴィー・レイ・ボーンは兄のジョン・ボーンと組んで出ていたわけで、その兄はこの映像の中でもスティーヴィーについて語っている。
店のオーナーは白人でクリフォード・アントンと言う。この彼がブルース狂であるのはとても嬉しく、ハウリン・ウルフが亡くなったため仕事が無かったヒューバート・サムリンを店のハウスバンドに雇っただけではなく、自宅に数ヶ月も住まわせたりもしている。ジミー・ロジャースにポンとES-335を贈ったり、ドラムセットを盗まれたドラマーには新品を与えたりもしたのだ。
かって、ヴェートーベンにもモーツァルトにもスポンサーは存在した。クリフォード・アントンはブルースマンのスポンサーのような役割を果たしているのだ。
このDVDでのインタビューを聞くにつけ、亡くなったジュニア・ウェルズが初来日の際、このまま日本に住もうかと言った、というのを思い出す。まさにアメリカ国内でもライブハウスではあるが、ブルースマンのシェルターが存在したわけだ。
深い愛情とミュージシャン個々への尊厳と、その演奏内容への知識、更にその演奏が現在のポピュラー音楽に与えた影響などを適切に語ることができる人間が運営しているライブハウスである。駄目なわけがない。
なによりも、ともすると自分たちの儲けのためだけにミュージシャンを利用する人間が多いなかで、逆にミュージシャンのための店となっているのが、そこかしこから感じ取れる。
楽曲の演奏はあっても、フェードアウトしてしまうものが多い。むしろ良質なドキュメント映画として、ブルースやその周辺の音楽、あるいはアメリカのルーツ音楽に興味のある人は、きっと見て損は無い。もちろんスティーヴィー・レイ・ボーンのファンでもだ。
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